ひょっとしたら,それは本当の思いやりとは違うかもしれません。
他人の身の上や気持ちに心配ること。同情。
金の鎖(くさり)と高価な髪飾り
金の鎖(くさり)と高価な髪飾り
もうこの言葉だけで,ある物語を思い出した方もいらっしゃるかと思います。
100年も前の古いアメリカのお話。
あるところに若い夫婦がいました。
若いだけにまだ財産もなく大した収入もなく質素に暮らしていたのですが,不況にあおられて部屋代にも事欠くしまつ。
クリスマスだというのにプレゼントを買うお金もない。
年若い奥さんは,苦労して働いている愛する夫の喜ぶ顔をどうしても見たい。
でも当然お金はありません。
彼女の自慢は膝までとどくほどの光り輝く髪の毛だけ。
通り過ぎる人もふり返ります。
彼女は思い切って「髪結い屋」,美容室ですね。
そこに髪を売りに行きます。
そのころはカツラの材料として良い髪は高く売れたのでしょう。
自慢の髪だけに,たいしたお金になりました。
大金をもって若い奥さんは飛び出します。
「これで夫を喜ばすことができるわ♪」
男の子のようになったくりくり頭で町中のお店を探し廻って,やっと見つけました。
すてきなプラチナ製の金鎖(くさり)。
若い夫は立派な金時計を持っていました。
若者には似合わない高価なものでしたが,これは祖父から父,そして子である夫に譲られたものでした。
でも立派なのはその時計だけで,時間を見るときには皮のひもを見えないようにしていたのを若い奥さんは知っていました。
これで人目を気にしないで,時計を見ることができる。
奥さんは天にも昇る気持ちで,飛んで家に帰りました。
愛する夫が帰って来ました。
髪の短い男の子のようになった若い奥さんに気づきます。
じっと彼女を見つめ続けます。ぼう然と。
怒ってはいないのです。
でも驚いたふうでもなく,とがめるふうでもなく,悲しんでいるようにも見えず,
ただ,永い間彼女をうつろに見続けています。
たまらなくなって,奥さんは髪を売ったこと,そしてそのお金でプレゼントを買ったことを話しました。
やっと正気に戻った夫は怒ってないことを伝え,ある包みを彼女に渡します。
・・・・・それは
高価な素敵な髪飾りでした。
前から何度もショーウィンドウで見ていたので,その値段も知っています。憧れの櫛だったのです。
でも飾る髪はありません。
「ああっ!」
絶句して涙ぐむ奥さんですが,気を取り直して言います。
「髪はまた伸びるわ。
それより私はこれを買ったの。
素敵でしょ?時計を見せて。つけてあげる。」
夫はぽつりと言います。
「時計はもうないんだ。売ってこの髪飾りを買ったんだ。」
相手を思いやるばかりに無駄にしてしまったお互いのプレゼント。
でもその気持ちはなによりも尊い・・・・・。
閑話休題。
とても素敵なお話ですね。
Oヘンリー 「賢者の贈りもの」
とうとつになぜこの話を書き出したのか?
先日,こんなことがありました。
ここからはたいくつな話になりそうなので,お暇な方だけお付き合いをm(__)m
私自身の話です。
先日,家内とけんかをしました。
とても些細なつまらないことで。
愚者の贈りもの
今私は家内と末息子の3人で暮らしています。
息子の職場は近所なので,私のほうが帰りが遅く,揃ってからの夕食となります。
その日はとても仕事が忙しくて,家の夕飯に間に合いそうにもありません。
2人に悪かろうと,遅くなりそうだから先に食べていてくれとメールを送っておきました。
仕事が終わり,疲れて家路についてやっと帰宅。
中に入ると家内がストーブの前でうたた寝をしていました。
少しむっとして,黙って自分の部屋に着替えに。
家内が気付いて追いかけるように私の部屋に来ました。
私は文句を一言も言ってませんが,その態度で怒っているとわかったのでしょう。
「暖かい唐揚げを食べさせようと息子の分だけを作り,待っていた。
それなのになぜ怒るのか?」
と逆に食ってかかられ,こちらの疲れもあって口論になってしまったのです。
私にすれば二度手間になるので疲れるだろうと思い,先に夕食と風呂を済ませていて欲しかったのです。
「それは悪かったね。ごめんね。」
と優しく笑顔で言えばよかったのでしょうが,むっとしていたので,
同じセリフが皮肉に聞こえたのでしょう。
ますます火に油を注ぐ結果となってしまいました。
喧嘩はこじれにこじれ,私の昔の不実な行いまでに及び,
もう一緒にいたくないとまで言われる始末です。
それから数日たちますが,冷戦状態はまだ続いています・・・。
お互いを思いやったことが,意に反し逆の結果になる・・・。
どうもうまくいきません。
疲れが倍増し,がっくりしていまいました。
そんな時に「賢者の贈りもの」の短編が頭をよぎったのです。
どこが違うのだろうか?
物語
妻は夫の喜ぶ顔を見たいと思い,自分の髪の毛を売ってお金を手に入れた。
夫は妻の喜ぶ顔を観たいと思い,自分の大切な金時計を売った。
妻はそのお金で,金時計にふさわしいプラチナのチェーンを買った。
夫はそのお金で,妻の髪にふさわしい素敵な髪飾りを買った。
クリスマスの夜の晩餐に髪の短くなった妻に呆然とする夫。
妻からプラチナのチェーンを贈られ,そのために髪を売ったことを知った夫。
夫から高価な髪飾りを贈られ,そのために金時計を売ったことを知った妻。
どちらの贈り物も今は役に立たない。
お互いに相手に良かれと思ったことが,無駄になった皮肉。
でもふたりの心は暖かくてほのぼのとする物語。
我が家
妻は夫にできたての揚げ物を食べさせようと子供の分を先に作り,夫の帰りを待っている。
夫は急な残業に,待っている妻に帰りが遅くなることをメールする夫。
待たせることをしたくなかったのだ。
帰ってきて,妻がストーブを前に寝てしまっているのを見た夫。メールには気がつかなかったようだ。
一言もしゃべらず,自分の部屋に着替えに行く夫。
夫が帰ってきたことに気づき,起きる妻。すぐに夕飯を作ることを伝えるが返事が返ってこないので怒り出す妻。
うーむ,なんとなく私の包容力のなさが原因と思うのです。
でもしっくりと腑に落ちません。
数十年ぶりに読み直してみた
情けない話ですが,原作を探して読み直しました(^-^;
今はネット検索をすると,なんでもすぐわかりますね。
ジムはその言葉には従わずに,寝椅子に身を投げ出すと,両手を頭のうしろに組みながらほほえんだ。
「ぼくたちのプレゼントは,このまま片付けて,しばらくしまっておくことにしよう。
あんまりすてきなんで,今すぐ使うわけにはいかないからね。
ぼくは,時計を売って,そのお金できみの櫛(くし)を買ったんだ。
さて,肉を焼いてもらおうかね」
出典 Oヘンリー短編集 賢者たちの贈りもの
・・・・・やっぱり,若い夫の包容力ですね💦
奥さんが夫を信頼しきっているからかな?
このあと,作者はイエスキリストの誕生の際に贈り物をもって駆け付けた3人の博士達(賢者)と二人の愚行は比べくべきものではないが,その行為はなによりもすばらしいと締めくくって物語は終わります。
この物語を読んだのは,まだ小学生のころの少年誌か教科書だったと思います。
そのころは,無性に感動したものですが,今読み返すと結末がとてもあいまいなことに気がつきました。
このあと,どうなるのでしょうか?
賢者の贈りものだったとしても
例えば,
これが私たちだったとします。
「あんたを喜ばすために大切な家宝を処分して,あこがれていた髪飾りを買ったのに自慢の髪を切ったって!?」
「髪はまた伸びるわ。あんたこそ大事な時計を売ってしまったって!?」
「××,▲◆〇■!!!」
・・・・・やっぱりけんかになっていたような気がします(^-^;
愚者からあなたに
私のようにその行為が相手のためになると思い込み,そのとおりにならないと気を悪くする。
それを感じて相手も気を悪くする。
それでは本来の目的とはかけ離れていますね。
そうではなくて,
大切なことは相手に感謝すること。
この考えが心の底に染みついていないから,中途半端になる。
だから相手を喜ばすこと。相手を楽にするこができなかったのでしょう。
そういう結論に達し,いい歳をしてまだまだ未熟な自分勝手な男やなと反省しきり。
後日,改めて家内には謝りましたが,まだしこりは残っています。
男は昔のことをすぐ忘れますが,女性は・・・・・。
これが愚者である私からあなたへの,思いやりの贈りものです。
私のような失敗をしないよう,お気をつけて。
それにしても,あの夫婦は懐中時計をどうするんだろう?