映画

心に残る映画のイラストを描いてみた。黒澤明「生きる」人生という道を照らす街灯のごとく

この男は生きているようで生きてない。

黒澤明「生きる」

 昔,「生きる」という映画を観たことがある。

 巨匠 黒澤明監督の作品である。 初めて観たのが中学生のときであったから, もう45年も昔のことだ。

 映画というものの魅力に囚われだしたころに観た作品で,声こそ出さなかったものの大泣きしてしまった。

 その頃は感受性が強かったのだろう。上映中に2度も泣いてしまった。

 隣の悪友も泣いていた。

 泣き腫らした目と, かみまくって赤くなった鼻で名画座から出たとき, 外はまだ明るかった。

 丁度その時, 同じ出口からカノジョを連れた同級生とばったり会い,とても気恥ずかしかったことを憶えている。

 何故かかれらの顔はきれいなままであった・・・・・。

 ストーリーそのものはとても地味で, 定年を迎える役所の市民課課長の話であり,

なぜこんな地味な映画をこの間まで子供であった中学生が観に行ったのか本当に奇妙ではあるが,正直よく憶えていない。

 不思議である。

 ただ,その当時,黒澤明といえば映画界のみではなく,だれでも知っているスーパースターであった。

「羅生門」に始まり, 「七人の侍」「隠し砦の三悪人」, 「天国と地獄」。

 スティーブンスピルバーグ,ジョージルーカス,クリントイーストウッド等世界的映画監督 も尊敬しており, 海外でもメジャーな存在であった。

 たぶんそのせいで観に行ったのであろう。

こんなストーリーであったと思う

 ここからは,かすかな記憶をもとに書いているので, かなりいい加減であることをご承知願う。

 地味な映画ながら, 展開はかなり面白く感じた。当然カラーではない。白黒映像である。

 冒頭,古臭い役所の中で各自が仕事をしているシーンから始まる。

 役所の窓口から少しずつ奥へカメラが入っていき,一番奥の窓際にいる主人公でカメラが止まる。

「この男は生きているようで生きてない。」

というようなナレーションから入っていく。

 古今東西, 良作はナレーションを抑え, 映像をもって視聴者の理解と想像力を掻き立てるものだが,この作品は違う。 ナレーションが多い。

 面白さも色々ある。短編の小説を読むような感覚に私はとらわれた。

渡辺 勘治という男

 戦後,妻を亡くし, 一人息子を男手一人で育てた主人公。そのため,遊びごともしたことがない。

 若いころは仕事にも燃え, 膨大な企画書も作成するが,却下されて机の奥にしまわれたまま。

 何十年も経った今, その意欲もなくなり,努力の結晶である企画書を破き, 印鑑の掃除に使っている始末である。

  今は家も持ち,苦労して育てた息子も一人前となり,妻を迎えて3人で暮らしている。

 主人公はわがままを言うこともなく,新婚の邪魔にならないよう気を使って日々生活している。

 ある日,腹痛のため病院で診断を受けると突然,がん末期であることを知らされる。 そのことを息子に話そうとする主人公。

 階下の居間に降りる階段で, 幼いころの息子との思い出が走馬灯のように脳裏を駆け巡る。

 がんであることを知らせなくてはならないので,階下の新婚スペースに降りていく主人公。

 新婚によくある話であるが,いつの時代も若い夫婦は親を煙たがる。

そのとき,夫婦の会話を偶然聞いてしまう。

車も欲しいし,旅行にも行きたい。お義父さんの退職金はいくらもらえるの?

打ち明ける気力もなくなり, 2階にがっくりゆっくり戻っていく。

 役所では今や管理職であり, 指示は時折出すが忙しいわけではない。

  新しい企画については, その困難さからいつも保守的な判断をしてしまう。 

 ナレーションで 「生きていない」と紹介される由縁である。 ついたあだ名は「ミイラ」。

 偶然知りあった売れない小説家に水先案内してもらい, キャバレーや遊行施設で遊びま わるが,後がないことを自覚しているので, 心底楽しめない。

 職場ではっちゃきな若い女性職員がいる。思ったことは何でもズバズバ言う。

 いつも常識はずれなことをするので,注意をするが,全然めげているようには見えない。

 毎日何がそんなに楽しいのだろうと興味を持ち, つきまとう。

 当初,ご飯を御馳走してくれたり,スポンサーとなってくれるので喜んでいた女性職員もだんだん気持ちが悪くなりだす。

 彼女は突然役所に来なくなった。

様子を見に行く主人公。

 喫茶店で(なぜか記憶では飯屋でうどんだったような気がするが),後がないので生きがいを知りたいと話そうとする主人公に,彼女はカバンからあるものを持ち出す。

 ウサギのゼンマイ人形だ。

 役所仕事は面白くない。生きがいを感じない。町の工場でこれを作っていることを知った。

給料は安くなるが,この工場で働く方が楽しい。と。

何をすべきか?

 茫然自失の主人公。先はみじかい。なにをやっても楽しくない。どうしたらいいんだ?

 そんなときに,下町のおかみさん連中が大勢で陳情にかけつける。

「橋の下の広場の水はけが悪く,いつも悪臭を放っている。

近くに公園もないので,子供たちはここで遊ぶしかない。」

「なんとかして欲しい。」

 部下職員が対応しながらも

「市民課だけでは,決めれないのです。公園課も地域課も関係しますので, お帰り下さい。」

と押し返している。

 彼がこれまでに言ってきたことだ。

はっとする主人公。

「君 ・・・・・, ちょっと・・・・・, いや,その・・・・・」

 ここから,物語が盛り上がってくるのかなと思っていると, 次のシーンが

突然,自宅のお通夜で始まる。

 主人公は死んだのである。 

お通夜

 現在は家族葬が多くなり,身内だけでしのぶことが多いので昔のお通夜というものをあまりご存じでない方もいらっしゃると思うので説明する。

 職場関係や町内会とか居住している地域,友人,親戚が一斉に集まり,故人をしのぶ。

翌日の本葬が正式なセレモニーとなるが,親しい者はお通夜から出席する。

 仕事が終わるくらいの時間帯から始まり, 終わる時間は決まっていない。

 各自が都合に合わせ駆けつける。だから,普段着で来る者も多い。

 仏前で礼拝した後,帰ってもよいのだが,

身内の方に故人とのかかわりや, 世話になったこと,立派だったことを聞かせて,惜しい人を亡くしたことをしのぶ。

 主催者側は世話役(町内会)が指図してお通夜にだす煮物やおにぎり, 酒の肴を分担して作ってくる。

そして,夜通し酒やお茶を飲みながら, 故人にまつわる話をして偲ぶのである。

 仏前には主人公の顔の写真が飾られ, 手前ひだりに喪主である息子夫婦が神妙な顔で座り,礼拝の終わった者にいちいち頭を下げている。

 役所の課長だけに役所からの出席者も多い。 総勢20人くらいか。

 主人公が立派であったことを各自が話し出す。

課長は知っていたのか?

 特に亡くなる直前は人が違ったように懸命に他の部署や上司に働きかけ, なんとか立派な公園を竣工させた。

なにが彼をそこまで真剣にさせたのか?

課長は死期を知っていたのではないか?

 いや,発起人は主人公だが,うまく竣工にこぎつけたのは助役の選挙出馬のタイミングと諸事情が重なって偶然仕事がうまくいったのだ。

などなど, 酒が入っているので盛り上がってきているところに, 役所の助役が訪れる。

 急に助役の功績であることに話が流れ,まるで選挙演説のようになった。

そのときに,突然,下町のおかみさん連中がどっと駆けつける。

 着の身着のまま,赤んぼを背負ったお母ちゃんもいる。作法も何もあったもんじゃない。

 だけど皆が涙を流し,ほんとうに悲しんでいることは周囲にもわかる。

 居心地が悪くなり,そうそうに退散する助役一行。

 助役が帰った後に,また,真面目な部下が話し出す。

「どうしても死期を知っていなければ, あそこまでやれなかったはずです。」

 幾度も幾度も公園課,地域課に日参する主人公。

何度断られても,粘り強く毎日協議を続けようとする。

 しまいには,主人公の顔をみただけで席を立とうとする地域課長。

「こんなこともありましたよ。」

 公園化する土地の近隣は遊興地帯があり, 公園ができると営業ができない。

 ある日,街中でやくざ者に脅される主人公と部下。

「てめえ,命が惜しくないのか?」

 そのとき, なんとも言えぬ顔でうっすらと笑う主人公に鬼気を感じ,後じさりするやくざ者。

 その数日後,やくざの親分が役所の助役室から出てきたところを,主人公とすれ違う。

 この親分を「七人の侍」で剣の達人役をやっていた宮口精二さんが演じていて,凄味がある。

 何ともいえぬ何人も殺していそうな暗く凄惨な目つきで主人公をみる。

  何秒か二人の目線は交差する。

瞬間,つと主人公が視線を外し, 助役室のドアをノックする。

 親分はすれ違った主人公に何かを感じ振り返るが,主人公はいつもどおりの低姿勢で,助役室に入っていく。

 しばらく首をかしげ見続ける親分。

 立ち合いのように感じたのは私だけか?

 結局,公園が完成したのは,主人公の課長の努力もあるが,選挙を控え実績が欲しかった助役や諸々の偶然が重なったことであって,

立役者は課長ではないということに落ち着きそうになった。

そうしたところに, 制服を着たままの巡査が訪問し, 位牌を拝んだ後に語りだす

「昨夜,パトロールをしていると,雪も降っているのに公園のブランコに乗って歌っている課長さんをお見掛けしました。」

「それはもう嬉しそうに気持ちよさそうに歌われておりました。」

「公園に帽子が落ちておりまして, 今日こちらでお通夜をされると聞いてまいりました。これがその帽子です・・・・・。」

 主人公が夜の雪が降る公園のプブランコで歌を歌っている。

ごんどらのうた

いのち短し恋せよ 乙女

朱き唇あせぬ間に

熱き血潮の冷えぬ間に

明日の月日ないものを

いのち短し恋せよ乙女

いざ手を取りて かの船に

いざ燃ゆる類を君が類に

ここは誰も来ぬものを

いのち短し恋せよ 乙女 黒髪の色想せぬ間に

心のほのお消えぬ間に

今日はふたたび来ぬものを

最後は夕陽の沈む公園で,おかみさんたちの

「ご飯できたよー。 帰っておいで一。」

の声に,歓声を上げるこどもたちのシーンで終わったと思う。

出典 Dragontarou I 氏

今思うこと

 私は今主人公と同じ年代となる。

 この映画を観た中学生が, ちょうど今, 主人公と同世代になろうとしている

 この映画を観て,なにか感じることがあり, 人生が変わったのであるのなら,美談ではある。

 だけれど,そんなものはない。

 ただのおっさんとなった元中学生がいるだけだ。

 悔いを残さぬよう生きてきたつもりではあるが,なにを基準に悔いを残さないのか?

 若いころの独身であるなら, 自分の未来像に賭ける夢が基準になるであろうし, 結婚すれば, 妻子を充分に養っていくことができる経済力が基準となる。

 さらに,個人によってはまた違うだろう。

 ただ,人それぞれに不思議に心に残っていることがある。

映画しかり,小説しかり, ドラマ,マンガ, 授業,講演,コンサート

 不思議とそれは色あせない。

 それが自分に対してどう影響があったかは知る術はなく,

只々,鮮やかな記憶として残っている。

 まるで,人生という道を照らす街灯のように。。。

舞い落ちる雪

ぶらんこに乗った主人公黒澤明の生きる

おつきあいいただき,ありがとうございました。

しんしん

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