お通夜
現在は家族葬が多くなり,身内だけでしのぶことが多いので昔のお通夜というものをあまりご存じでない方もいらっしゃると思うので説明する。
職場関係や町内会とか居住している地域,友人,親戚が一斉に集まり,故人をしのぶ。
翌日の本葬が正式なセレモニーとなるが,親しい者はお通夜から出席する。
仕事が終わるくらいの時間帯から始まり, 終わる時間は決まっていない。
各自が都合に合わせ駆けつける。だから,普段着で来る者も多い。
仏前で礼拝した後,帰ってもよいのだが,
身内の方に故人とのかかわりや, 世話になったこと,立派だったことを聞かせて,惜しい人を亡くしたことをしのぶ。
主催者側は世話役(町内会)が指図してお通夜にだす煮物やおにぎり, 酒の肴を分担して作ってくる。
そして,夜通し酒やお茶を飲みながら, 故人にまつわる話をして偲ぶのである。
仏前には主人公の顔の写真が飾られ, 手前ひだりに喪主である息子夫婦が神妙な顔で座り,礼拝の終わった者にいちいち頭を下げている。
役所の課長だけに役所からの出席者も多い。 総勢20人くらいか。
主人公が立派であったことを各自が話し出す。
課長は知っていたのか?
特に亡くなる直前は人が違ったように懸命に他の部署や上司に働きかけ, なんとか立派な公園を竣工させた。
なにが彼をそこまで真剣にさせたのか?
課長は死期を知っていたのではないか?
いや,発起人は主人公だが,うまく竣工にこぎつけたのは助役の選挙出馬のタイミングと諸事情が重なって偶然仕事がうまくいったのだ。
などなど, 酒が入っているので盛り上がってきているところに, 役所の助役が訪れる。
急に助役の功績であることに話が流れ,まるで選挙演説のようになった。
そのときに,突然,下町のおかみさん連中がどっと駆けつける。
着の身着のまま,赤んぼを背負ったお母ちゃんもいる。作法も何もあったもんじゃない。
だけど皆が涙を流し,ほんとうに悲しんでいることは周囲にもわかる。
居心地が悪くなり,そうそうに退散する助役一行。
助役が帰った後に,また,真面目な部下が話し出す。
「どうしても死期を知っていなければ, あそこまでやれなかったはずです。」
幾度も幾度も公園課,地域課に日参する主人公。
何度断られても,粘り強く毎日協議を続けようとする。
しまいには,主人公の顔をみただけで席を立とうとする地域課長。
「こんなこともありましたよ。」
公園化する土地の近隣は遊興地帯があり, 公園ができると営業ができない。
ある日,街中でやくざ者に脅される主人公と部下。
「てめえ,命が惜しくないのか?」
そのとき, なんとも言えぬ顔でうっすらと笑う主人公に鬼気を感じ,後じさりするやくざ者。
その数日後,やくざの親分が役所の助役室から出てきたところを,主人公とすれ違う。
この親分を「七人の侍」で剣の達人役をやっていた宮口精二さんが演じていて,凄味がある。
何ともいえぬ何人も殺していそうな暗く凄惨な目つきで主人公をみる。
何秒か二人の目線は交差する。
瞬間,つと主人公が視線を外し, 助役室のドアをノックする。
親分はすれ違った主人公に何かを感じ振り返るが,主人公はいつもどおりの低姿勢で,助役室に入っていく。
しばらく首をかしげ見続ける親分。
立ち合いのように感じたのは私だけか?
結局,公園が完成したのは,主人公の課長の努力もあるが,選挙を控え実績が欲しかった助役や諸々の偶然が重なったことであって,
立役者は課長ではないということに落ち着きそうになった。
そうしたところに, 制服を着たままの巡査が訪問し, 位牌を拝んだ後に語りだす。
「昨夜,パトロールをしていると,雪も降っているのに公園のブランコに乗って歌っている課長さんをお見掛けしました。」
「それはもう嬉しそうに気持ちよさそうに歌われておりました。」
「公園に帽子が落ちておりまして, 今日こちらでお通夜をされると聞いてまいりました。これがその帽子です・・・・・。」
主人公が夜の雪が降る公園のプブランコで歌を歌っている。
いのち短し恋せよ 乙女
朱き唇あせぬ間に
熱き血潮の冷えぬ間に
明日の月日ないものを
いのち短し恋せよ乙女
いざ手を取りて かの船に
いざ燃ゆる類を君が類に
ここは誰も来ぬものを
いのち短し恋せよ 乙女 黒髪の色想せぬ間に
心のほのお消えぬ間に
今日はふたたび来ぬものを
最後は夕陽の沈む公園で,おかみさんたちの
「ご飯できたよー。 帰っておいで一。」
の声に,歓声を上げるこどもたちのシーンで終わったと思う。
出典 Dragontarou I 氏
今思うこと
私は今主人公と同じ年代となる。
この映画を観た中学生が, ちょうど今, 主人公と同世代になろうとしている。
この映画を観て,なにか感じることがあり, 人生が変わったのであるのなら,美談ではある。
だけれど,そんなものはない。
ただのおっさんとなった元中学生がいるだけだ。
悔いを残さぬよう生きてきたつもりではあるが,なにを基準に悔いを残さないのか?
若いころの独身であるなら, 自分の未来像に賭ける夢が基準になるであろうし, 結婚すれば, 妻子を充分に養っていくことができる経済力が基準となる。
さらに,個人によってはまた違うだろう。
ただ,人それぞれに不思議に心に残っていることがある。
映画しかり,小説しかり, ドラマ,マンガ, 授業,講演,コンサート
不思議とそれは色あせない。
それが自分に対してどう影響があったかは知る術はなく,
只々,鮮やかな記憶として残っている。
まるで,人生という道を照らす街灯のように。。。
おつきあいいただき,ありがとうございました。
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今見たら,黒澤明33作品特集?ってやってました。
