「先に書くんだよ。
寂しいときは,自分から先に手を打たなきゃ。」
愛するドロレス
愛するドロレス
木々の葉は落ちて
灰色と茶色に変わった。
白い雪が木の枝に積もり
おとぎ話の世界のようだ。
待ち遠しい
キミをこの腕に抱きしめるときが。
愛している
トニー
ブロンクスのトニーの家では,親戚,友人が集まり
ホームパーティの最中だ。
男たちはポーカーを楽しみ,
女たちはドロレスが読み聞かせる手紙を,うっとりと聞いている。
![女房たちに手紙を読み聞かせるドロレス](https://sp-ao.shortpixel.ai/client/to_webp,q_lossy,ret_img,w_507,h_343/https://shinshinblg.com/wp-content/uploads/2021/07/Doloresreadingtheletter.jpg)
「ジョーン,私も手紙が欲しい!」
「ああ,料理を作ったらな。」
「あいつにそんな文才あったっけ?」
ドクのツアーは大成功でどこに行っても,盛況だ。
ツアーの終わりも近い。
豪雨の夜
豪雨の中でパトカーに停められ,
あまりの暴言にトニーが手を出してしまい,ブタ小屋に放り込まれるふたり。
何もしていないドクまでほり込まれる。
結局,ドクが機知である司法長官のロバートケネディに連絡し釈放となった。
釈放されて,ふたりは口論となってしまう。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
ロバート・ケネディは当時アメリカで大きな問題となりつつあった
人種問題(公民運動)にも積極的に関与していた。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
ドクも2度ホワイトハウスに招待されており,
ある意味で同志であったのだろう。
黒人の私はいつも耐えている。一日くらい我慢しろ。
黒人差別と闘っている彼に私用で助けを求めてしまった。恥ずかしい・・・。
トニーは面白くない。
へッ。おれのほうが黒人(庶民)をよく知っている。
俺たちは毎日家族を食わすために懸命に働いているんや。
あんたはお城に住み,貧乏人のことなんて何もわかってない!
・・・停めろ。
いやだね。
停めろと言ってるんだ!!
あまりのドクの凄まじさに車を停めるトニー。
何も言わずに凍える土砂降りのなか,
車から降りて歩き続けるドク。
驚いたトニーは懸命に戻るよう説得するが,
その手を払いのけ叫んだ。
そのとおりだよ!私は独りで城住まいだ。
金持ちは教養人と思われたくて私の演奏を聴く。
そのとき以外はただのニガー。それが今の世の中だ!
軽蔑を私は独りで耐える。はぐれ黒人だから。
黒人でもなく,白人でもなく,男でもない私はいったい何なんだ?!
ドクの心の奥にある本当の苦悩が爆発する。
言葉もなく立ちつくすふたり・・・・・。
![白人でも黒人でもない。男でもない。私は何なんだ?](https://sp-ao.shortpixel.ai/client/to_webp,q_lossy,ret_img,w_839,h_567/https://shinshinblg.com/wp-content/uploads/2021/07/Whatami-1.jpg)
黒人モーテルにふたり
疲れ果て黒人用モーテルに相部屋のふたり。
トニーはあいかわらず手紙を書いている。
見せろ。手直しをする。
いや,もうええわ。書くコツを覚えたんや。
とりあげて,文面を読み上げるドク。
君は家に似ている。
そこは明かりが灯っていて,幸せな家族が暮らしている・・・・・。
文面を何度も読み直し,ドクは心底しみじみと,
・・・・・本当だな。いい手紙だ。
帰ったらあんたも兄貴に手紙を書いたら?
兄は私の住所を知っている。
なあドク・・・先に書くんや。
「
寂しいときは,自分から先に手を打たんと。」
ベッドの上で黙って聞いているドク。
最後のステージ
最後の公演となるクリスマス前夜。
ゴージャスなホテルでの演奏前に
レストランで食事をとろうとしたところ,
黒人は食事することができないと言われ,堪忍袋が切れるドク。
このレストランで食事できないのなら,演奏はしない。
ホテル支配人から説得するように金を渡されるトニー。
支配人を殴りそうになるトニーをドクが止める。
きみがいうなら私は演奏する。
視線が合うふたり。
こんなところ,出て行こうや。
一流ホテルでの400人のディナーショウだけに,
真っ青な顔をして大声で追いかける支配人。
黒人のボーイたちの気の晴れた笑顔。
![コンサートをボイコットする二人](https://sp-ao.shortpixel.ai/client/to_webp,q_lossy,ret_img,w_567,h_839/https://shinshinblg.com/wp-content/uploads/2021/07/Boykoto.jpg)
クリスマスイブまでにどうしても帰りたいトニー。
豪雪のため,思うように走れない。
深夜に入り,睡魔のために諦めるトニー。
家族は親類も集まり,盛大な準備のさなか。
聖夜の夜
なぜかニューヨークに到着する車。
なんとドクが運転してきたのだ。
トニーをたたき起こし,カバンを持たせるドク。
家に来るように誘われるが,断る。
メリークリスマス。おやすみ。
豪雪の中,なんとかして運転して帰る。
お城の王様 翡翠石をなぜ彼が
お城(カーネギーホールの上階)で待つインド人の執事にも,
家族のために早く帰るように指示し,ひとり広い広間に残る。
見事な調度品が所狭しと飾られている豪華な広間。
定席の玉座に座ることもなく,
ひとつのイスに腰掛けてぼんやりと玉座を眺めている。
ひとりぼっちのお城の王様・・・。
なにやらすべてが虚しい。
じっと手にある石を見ている。
トニーがくすねた緑の翡翠石だ。
運転の間,トニーがお守りとしていたのをドクは知っている。
車のダッシュボードあったのを持ってきたのだ。
あのときは戻せと叱ったが,
この危険な旅の中で無事帰ってこれたのも,この石のおかげかも知れない。
がさつで教養のない腕っぷしだけが強いイタリア男。
最初はどちらかというと心の中で軽蔑していた。
それがどなりあい,いがみあいながらも彼の心根,優しさを知った。
教養で人格はできるのではなく,生き様でひとは育つことを知った。
今の自分にとってトニーと知り合い,何ごとにも代えられない間柄になれたのも,この翡翠のせいかも知れない・・・・・。
長いあいだ石を見つめて,
彼は静かに静かに翡翠を机の上に置いた。
トニーの家
家族親戚が集まりパーティ中の家に帰るトニー
家族に囲まれるトニー。
愛するドロレスとも会えた。お互い目で労わっている。
会食でドクのことを聞かれるが
ニガーと言うな。
というトニーの発言に一同開いた口がふさがらない。
(出発前は一番の黒人嫌いだったのに)
突然ドアがノックされる。
迎えに行くと質屋の老夫婦。
「メリークリスマス。」
快く迎え入れ,ドアを閉めようとしたところ,
ワインを持ったドクが,はにかみながら立っていた。
ドク!
全身で抱き合うふたり。まさに親友だ。
部屋に招き入れる。
紹介しよう。ドン・シャーリーだ。
突然,黒人が来たので親戚一同固まってしまう。
台所から,老夫婦にコーヒーをいれたドロレスがドクに気づいて駆け寄る。
ドロレスだね。大事な御主人は返したよ。
トニーの表情を見て,思わずドクに抱きつくドロレス。
耳元でそっとドクに
「手紙をありがとう❤。」
えっと,ドロレスの顔を見て,ばれてたかというような満面の笑顔でハグするふたり。
そして夜は深けていく。
![クリスマスパーティに訪問するドク](https://sp-ao.shortpixel.ai/client/to_webp,q_lossy,ret_img,w_567,h_839/https://shinshinblg.com/wp-content/uploads/2021/07/Ending2-1.jpg)
余談
ふたりは実在した
ミュージシャンのドン・シャーリー
とその後,コパカバーナの支配人となったトニー・リップ
であり,
ずっと親交は続いいて,どちらもじいさんとなった2013年に亡くなったそうだ。
親友というものはいいもので,
このふたりは初めて会ってツアーに参加して生活を共にしてそうなった。
でもそれは別に特別なことではなくて,
日ごろから虫の好かないやつと思っていたけど,あることから親友になったりもする。
筆者にもひとりいて,そいつとはもう40年の付き合いになる。
周りをよく見わたしてみましょう。
ほら,となりで釣り皮につかまっている人がそうかも知れませんよ?
私流に解釈,味付けして書いてみました。
毎回,描きたい絵が頭に浮かび,選ぶのに苦労したこと。
時間がなかったので,なぐり描きになったことが悔やまれます。
本作を観ていただいて,その良さが味わっていただけると幸いです。
読んでいただき,本当にありがとうございました。
![](https://sp-ao.shortpixel.ai/client/to_webp,q_lossy,ret_img,w_554,h_820/https://shinshinblg.com/wp-content/uploads/2023/01/グリーンブックエンディング改pin2-692x1024.jpg)