元々,ジャズは嫌いではないが, それほど詳しくはない。
西成ジャズを知った次の年に異動となり, 勤務が日中ではなく, 夜勤となった。
夜勤明けの難波屋
朝勤務に入り,その日深夜に仮眠を数時間とり, また5時前ころから10時まで勤務する。
もう若くもなく, トラブルも多いので かなり疲れる。
トラブルがなければ放免で帰れる。
あれば,ある程度決着をつけないと引き継げない。
2日分を勤務するので,その日の午後と翌日は休日となる。
つまり,勤務はきついが時間はあるわけで, 帰って寝れば良いのに帰ろうとしない。
別に意地になっているわけではないが,
何故か面白くないので真っすぐに家に帰りたくないのである。
そういう時におっさんが向かう所は大概決まっている。
複数線が交差する土地には, 目立たないが, 朝もしくは昼ころから酒を飲ませる店がある。
西成は労働者,日雇いの街として有名なだけにそういった店がたくさんあり,
たくさんあるということは競争の原理で安い店, 美味しい店が存在する。
私は,食欲があれば「まるふく」でホルモン,そうでなければ「難波屋」を愛用しており,
夜勤明けの疲労が溜まっている状態で食欲があることはまずなく, 難波屋に行く ことが多かった。
昼前なので, さすがに客は多くない。
身体,精神共にボロボロで飲むので,よく回る。
ただ,一般の労働者があくせく働き廻る姿を横目に飲む酒は美味い。
何か優越感がある。
松田さんとの出会い
昼間の酒は回ると言われるが,
これは日中のせいではなく,この二つの理由からか,はたまた,その両方か?
などと,酔いは回るが,回らない頭でとり止めのないことを,ぼんやり考えている。
ふと,気づくとカウンター内のひとりに見覚えがある。先日ドラムを叩いていた人だ。
「あれ?一昨日ドラムやってはった人ですね?」
「そうです。 ジャズお好きですか?」
これが私の松田氏との初めての会話であったような記憶がする。
「いやー,凄かった。久しぶりに感動しました。」
てな会話を交わすうちに, 親しくなった。
夜飲みでは客が多く忙しいので話す暇はないが,昼間は店の者も余裕がある。
週に2日,日中だけ厨房に入っているそうだ。
私も変則勤務なので,道理で会わなかった訳だ。
その後,夜も難波屋とドナリーには行っていたが,
夜勤明けの日にも顔を合わす回数が増え, 暇なときには祭りなどのイベントにも行くようになった。
プレイヤーとも打ち解けるようになった。
私は音楽については素人だ。
だが,演奏が白熱して来るといつもではないが,
彼のドラムから打楽器でありながら,
メロディーが聞こえて来ることがある。
それが,酔いのせいなのかどうかは知る由もない。
が,それを聴かせてくれる松田氏のファンであることに間違いはない。
還暦ライブ
ステージには色とりどりの風船が飾られ,
壁には2メートルはある「HAPPY BIRTHDAY」というデコレーションと
落ち着いた赤の色合いのTシャツが飾られている。
Tシャツ にはしゃれたデザインで
「JUNJI MATHUDA 60」とペイントされている。
今日は彼の60歳祝いのセッションイベントである。
メンバーは
西成ジャズの女王 臼井優子
かならず盛り上がる 小柳淳子
今あぶらののっている 谷山和恵
オールラウンドトランペット 横尾昌二郎
大御所ピアノ 岩佐康彦
常に安定したいい音のベース 衛藤修治
しびれる音の嵐 ドラム 松田順司
ボーカル 臼井優子
言わずと知れた西成ジャズのシンガーといえば,臼井優子。
創業期からずっと歌い続けている歌ありMCあり,ステージを楽しませてくれる。
歌もすばらしく,ジャンルを問わずレパートリーも多く,広く歌いこなすので,あきることがない。
最近またニューアルバムをリリース。
ボーカル 小柳淳子
このかたのステージはいつのまにか盛り上がる。
とにかくリズム感がすごい。
この日もトランペットとのかけあいで,まるで楽器のよう。
この人は歌手なんだが,絶妙な音感でジャズを楽しませてくれる。
聴いているうちに気持ちが高揚して,だれもが盛りいつのまにかみんなが笑顔に。
そんな不思議なシンガーというか,ボイス プレイヤー。
最近またニューアルバムをリリース。
ボーカル 谷山和恵
ふたりからみると若手だが,このひとの歌唱力がすばらしい。
力強くとおる歌声がステージに響きわたり,聴き惚れてしまう。
トランペット 横尾昌二郎
このひとも若いが,操業初めのころから西成ジャズで活躍しているトランぺッター。
本領はノーシンガーのときの演奏だけど,シンガーとのセッションもとても軽やかでその歌手の色がでるよう上手く演奏する。
しかし,本当は・・・。
「西成ビバップ」のときに聴いて欲しいトランぺッター。
ピアノ 岩佐康彦
関西ビバップジャズの重鎮 岩佐康彦 。
西成ジャズでは多くのピアニストプレーヤーがいますが,ひとことで言えば力強いダイナミックなサウンド!
トランペット,ドラムに負けない力強さと経験からの深い音。
脇役にありながらはっきりとピアノの存在を感じさせる。
そんなピアニストだ。
ベース 衛藤修治
西成ジャズの常連プレイヤーベーシスト。
松田さんの信頼がとてもあつい。
西成ジャズでは新顔のミュージシャンや新人も定期的に参加する。
優れたプレイヤーでも相性の良い悪いがあるらしい。
「絶対いけると思った組み合わせがもうひとつやったり,
期待してなかった組み合わせが感動する素晴らしいセッションになったりする。
不思議やわ。」
「衛藤さんが入るとどんな組み合わせでも,まとまるねん。」
過去に松田さんからそういうことを聞いたことがある。
言われてみれば確かにそうだ。
控えめだが,常に正確なリズムを刻み曲をまとめる。
いいセッションの陰には衛藤さんが・・・。
そんなベーシスト。
しかし,この日はソロですばらしい演奏を聴かせてくれた。
前に出るのはめずらしい。