西成ジャズと私

西成ジャズと私5 松田さん

元々,ジャズは嫌いではないが, それほど詳しくはない。

西成ジャズを知った次の年に異動となり, 勤務が日中ではなく, 夜勤となった。

 朝勤務に入り,その日深夜に仮眠を数時間とり, また5時前ころから10時まで勤務する。

 もう若くもなく, トラブルも多いので かなり疲れる。

 トラブルがなければ放免で帰れる。あれば,ある程度決着をつけないと引き継げない。

 2日分を勤務するので,その日の午後と翌日は休日となる。

つまり,勤務はきついが時間はあるわけで, 帰って寝れば良いのに帰ろうとしない。

 別に意地になっているわけではないが, 何故か面白くないので真っすぐに家に帰りたくないのである。

 そういう時におっさんが向かう所は大概決まっている。

 複数線が交差する土地には, 目立たないが, 朝もしくは昼ころから酒を飲ませる店がある。

 西成は労働者,日雇いの街として有名なだけにそういった店がたくさんあり, たくさんあるということは競争の原理で安い店, 美味しい店が存在する。

 私は,食欲があれば「まるふく」でホルモン,そうでなければ「難波屋」を愛用しており,夜勤明けの疲労が溜まっている状態で食欲があることはまずなく, 難波屋に行く ことが多かった。

 昼前なので, さすがに客は多くない。

 身体,精神共にボロボロで飲むので,よく回る。

 ただ,一般の労働者があくせく働き廻る姿を横目に飲む酒は美味い。何か優越感がある。

 昼間の酒は回ると言われるが,これは日中のせいではなく,この二つの理由からか,はたまた,その両方か?

などと,酔いは回るが,回らない頭でとり止めのないことを,ぼんやり考えている。

 ふと,気づくとカウンター内のひとりに見覚えがある。先日ドラムを叩いていた人だ。

「あれ?一昨日ドラムやってはった人ですね?」

「そうです。 ジャズお好きですか?」

 これが私の松田氏との初めての会話であったような記憶がする。

「いやー,凄かった。久しぶりに感動しました。」

てな会話を交わすうちに, 親しくなった。

 夜飲みでは客が多く忙しいので話す暇はないが,昼間は店の者も余裕がある。

 週に2日,日中だけ厨房に入っているそうだ。私も変則勤務なので,道理で会わなかった訳だ。

 その後,夜も難波屋とドナリーには行っていたが, 夜勤明けの日にも顔を合わす回数が増え, 暇なときには祭りなどのイベントにも行くようになった。

プレイヤーとも打ち解けるようになった。

 私は音楽については素人だ。

 だが,演奏が白熱して来るといつもではないが,

彼のドラムから打楽器でありながら,

メロディーが聞こえて来ることがある。

 それが,酔いのせいなのかどうかは知る由もないが,それを聴かせてくれる松田氏のファンであることに間違いはない。

西成ジャズと私6 立ち飲み屋での男の思考 サラボーン酒が飲みたいのではない。 そこにいることで,知らない連中が話す内容と自分の過去をふり返り,それを酒の肴にして飲むことが楽しいことだと,ようやくわかってきた。...